大震災の教訓 語り継げ

「新聞のスクラップによって、自分の意外な興味・関心に気づくことがある」と語る池上彰さん=東京都文京区のホテル

「新聞のスクラップによって、自分の意外な興味・関心に気づくことがある」と語る池上彰さん=東京都文京区のホテル

nie-logo 新聞の活用をうたう小学校の新学習指導要領が全面実施されて3カ月。分かりやすいニュース解説で人気のジャーナリスト、池上彰さん(60)が南日本新聞のインタビューにこたえ、子どもと新聞のかかわりなどについて語った。東日本大震災の教訓を記録に残し、鹿児島でも地元の問題として考える大切さを訴えた。新聞活用は小学校を皮切りに中学・高校でも順次、全面実施される。背景について、池上さんは読解力低下が国語以外の教科にも影響していると指摘。さまざまな事象を文章で説明する新聞を読み続ける有効性を説いた。

 東日本大震災の被害から得た教訓、被災地の人々の気高い行動を語り継ぐ大切さも訴えた。自然災害の多い鹿児島でも、自分たちの問題として引き寄せて考える教育、報道の必要性を強調した。

(聞き手 東京支社報道部長・井上喜三郎)

よき市民

ニュース通し社会に興味

-子どものころから新聞に親しむことが「よき市民」につながると言っています。

 新聞に親しむとは、ニュースに親しむことです。ニュースを通じて社会に対する興味、関心を持てれば、世の中のさまざまな問題点が見えてくる。あるいは政治に無関心でいられなくなります。大げさな言い方かもしれませんが、私たちは民主主義社会を構成する一員なんだという自覚が出れば、「世の中けしからんよね」ですますのでなくて、「どうすればいいのかな」と考えるようになる。それが「よき市民」につながると思います。米国ではネットの影響もあって、地方紙や地域紙が減っています。その結果、地元の首長や議員の選挙情報が報道されず、投票率が落ちているそうです。民主主義の基盤にかかわることだと危機感を感じます。

 いけがみ・あきら 1950年8月9日、長野県松本市生まれ。慶応大経済学部卒業後、73年NHK入局。松江放送局、報道局社会部などで勤務。94年から2005年、「週刊こどもニュース」のお父さん役を務める。同年フリージャーナリストに。時事問題をわかりやすく解説したテレビ番組、著書で人気。著書は「自著だけで百数十冊、監修などを合わせると二百数十冊」

いけがみ・あきら 1950年8月9日、長野県松本市生まれ。慶応大経済学部卒業後、73年NHK入局。松江放送局、報道局社会部などで勤務。94年から2005年、「週刊こどもニュース」のお父さん役を務める。同年フリージャーナリストに。時事問題をわかりやすく解説したテレビ番組、著書で人気。著書は「自著だけで百数十冊、監修などを合わせると二百数十冊」

-新学習指導要領に新聞活用が盛り込まれ、本年度から小学校、来年度以降は中学、高校へと広がります。背景や意義をどう考えますか。

 読み書きの能力がとても大事だとわかってきた。児童・生徒の算数や数学の能力が落ちているといいますが、実は応用問題の文章や教科書の説明が読み解けていない。結局はどの教科も国語力、読み解く力が基本です。新聞はさまざまなことを文字で説明しており、いつも読むことで読み解く力がつく。

 経済協力開発機構(OECD)の学習到達度調査(PISA)で成績がいい子は、新聞を読んでいるといわれます。新聞を読むから学力が高いのか、学力が高いから新聞を読むのか、鶏と卵の話と一緒で、因果関係はわからない。ただし相関関係があるのは間違いない。温暖化や生物多様性の記事を読んで、理科に関心を持ちいろいろ調べれば、成績は上がるんですよ。

 また新聞は投書欄などで、例えば原子力発電にかんする多様な意見を紹介している。それを元に自分で考えることが大切。社会に出てから生きていく力にもつながります。

活用法

気になる記事、スクラップを

-具体的な活用法についてアドバイスを。

 一例が先の菅内閣不信任決議案。民主党内でどれだけ造反が出るかという報道が多かったが、不信任決議案とはそもそもどういうことか。衆議院では出せるけど、参議院では出せないといった記事があれば、中学の公民の教科書にある話そのものなんです。教科書だけではピンと来ないことも、「ここに載っていることが、今まさにニュースになっているんだよ」と言えば、子どもたちの頭にすーっと入る。

 学校の先生は忙しい中、授業でどう児童・生徒に教えようか、いい教材はないかと考えています。教科書につながる解説が新聞にあれば、先生も「しめた」と思うわけです。今使えなくても、今後のために切り抜きしておく。新聞もそういう作り方が大切だと思います。

池上彰さんに聞く

-私たち以上に、新聞について詳しい。

 小学校6年生のころはすでに新聞大好きでした。東京五輪があった中学2年のときは、保健体育の先生から五輪関連の記事を切り抜いてスクラップ帳に貼り、それについてのコメントを書くように言われました。記録だけ、順位だけをスクラップする人もいましたが、私は気がつくと人間ドラマを切り抜いていました。

-記事のスクラップは相当な分量らしいですね。

 気になる記事をとにかくスクラップして、ためておく。ジャンル分けする必要はありません。何カ月かたって見直すと、自分は意外にもこういうジャンルに興味があるんだと気づくんです。

 文科省がキャリア教育に力を入れています。なるべく早い段階から職業観を育てようという考えです。ところが先生の多くは、学校を卒業してそのまま学校で働く。残念ながら外の社会についてよく知らない。そこでなりたい仕事に関する記事を切り抜き、生かす方法があります。

 例えば、サッカー選手になるのはとても難しい。でも、ある子がサッカー関連でもシューズやユニホームの記事を集めていたら、スポーツ用品店やスポーツウエアブランドの仕事をやりたかったのだ、と気づくかもしれない。あるいはJリーグの経営にかんする記事なら、その子は経済分野、企業経営に向いているかもしれない。気になる記事をスクラップすることによって、後で客観的に見ることができます。

大震災

鹿児島に置き換え考える

-今回の大震災を子どもたちに伝えるうえで、新聞の果たすべき役割がありますか。

 ここより下に家を建ててはいけないという言い伝えを守って大津波から助かった人たちもいれば、言い伝えが忘れられて多くの人が犠牲になったところもあります。大震災のことをどれだけきちんと伝え、教訓として残していくことができるか。また被災者の中には気高い人がいて、その行動が世の中に感動を与えています。そんな読み物は、子どもたちの励みになるでしょう。実は今度、文芸春秋と私の連名で、被災地の地方紙が今回の大震災をどう伝えたかを本にしました。「東日本大震災 心をつなぐニュース」というタイトルで、読むと元気が出る話を多く集めました。収益はすべて義援金にします。

 被災地以外の新聞も、「じゃあ鹿児島県ではどうだろう」と地元の問題に置き換えて考えてほしい。桜島が大噴火したらどうなるのか。引き寄せて考える材料を与える。

-地方紙の役割についてどう思いますか。

 小学校低学年の生活科では、学校周辺を探検します。地方紙にはそれぞれの市や町の話題が出ています。その記事を通じて、自分の住んでいる地域のことを知ればまさに生きた学習になります。

2011/06/29 本紙掲載