母や姉は救済され、家族でただ1人対象外 「なぜ、私だけ。同じ魚を食べた被害者なのに…」【水俣病特措法近畿訴訟 27日判決】 

2023年9月24日 18:00

幼い頃に貝をとりに訪れた海を見つめる松原美里さん=8月、出水市米ノ津町
 水俣病特別措置法の救済から外れた鹿児島県と熊本県の出身者128人が、国と熊本県、原因企業チッソに1人450万円の損害賠償を求めた集団訴訟(近畿訴訟)の判決が27日、大阪地裁で言い渡される。居住地域や出生年で救済対象を「線引き」した特措法の妥当性が司法の場で初めて判断される。請求が認められた場合、今後救済制度に影響を及ぼす可能性がある。

 水俣病を巡っては1956年の公式確認以降、救済の取り組みが続いたが、枠組みに漏れた未認定患者の法廷闘争も絶えなかった。2009年7月施行の特措法は「最終解決」を掲げ、認定患者でなくても一定の症状がある場合は一時金の支給などを定めた。申請は12年7月に締め切られ、約3万8000人に一時金210万円などを支給した。

 給付には、チッソが水銀の排出を止めた1968年以前に八代海沿岸の対象地域での1年以上の居住歴や、原則69年11月までの出生を条件とした。このため1万人近くが非該当となった。

 救済から外れた水俣病不知火患者会の関西在住者らは線引きの不当性を主張し、損害賠償を求めて2014年に大阪地裁に提訴。同様の訴訟は東京、新潟、熊本の各地裁でも争われており、判決は今回が初めて。4地裁の原告は1700人を超える。

 近畿訴訟の原告は関西や東海など13府県に住む51~87歳の男女で、うち43人が鹿児島県出身。集団就職などで地元を離れていたため特措法の制度すら知らず、期限内に申請できなかった人が7割近くを占める。対象地域外の出身は約6割。

 国など被告側は、国の水俣病認定基準を満たしておらず、発症するほどの水銀暴露はなかったと反論。症状があったとしても、賠償請求権が消滅する除斥期間(20年)が経過していると主張する。



 水俣病特別措置法に関する近畿訴訟原告の一人、奈良市の松原美里さん(54)=出水市米ノ津町出身=は救済対象地域で生まれ育ったにもかかわらず、出生年の線引きで対象から外れた。「なぜ認められないのか。被害者全員を救済してほしい」と願う。

 松原さんは中学生の頃から手足のしびれやこむら返りに苦しんできた。感覚が鈍いため、転んだり物を落としたりすることも多かった。水俣病とは思いもせず、「何をしてもどんくさくて。情けないし悔しくて、恥ずかしい限りだった」と振り返る。

 祖父や父が漁師で、食卓にはいつも八代海の魚が並んだ。赤ちゃんの頃は魚のだしを薄めて飲み、身をすりつぶしたおかゆを食べた。魚介が大好きで、家の近くの漁港であさりなど貝類をとっていた。

 高校卒業後に就職で関西へ。同じく手足のしびれなどがあった母の勧めで、40代の時に特措法に申請した。しかし結果は非該当。母や2歳上の姉は救済され、家族でただ1人外された。「同じ魚を食べて育ったのに、どうして」

 後に出生年で対象外だったことを知った。納得できず、訴訟への参加を決めた。今後、さらに症状がひどくなるのではないかと不安は尽きない。

 国や県は、原因企業チッソが八代海への排水を止めた後は罹患(りかん)することはないと主張する。松原さんは「放出されたメチル水銀がすぐになくなるはずがない。救済に線引きを設けた行政のやり方には怒りと悲しみを覚える」と話した。

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