避難時の人工呼吸器 電源どう確保 個別計画は自治体の努力義務だが…進まぬ把握「まずは自助」 激甚化する災害に危機感 

2023年9月29日 18:03

避難所の電源確保の状況などを確認する関係者=8月、薩摩川内市総合福祉会館
 「電源確保は命に関わる」。在宅で人工呼吸器を使う住民や家族、支援者らは激甚化する災害に危機感を募らせ、自ら備えを進めている。8月上旬、台風6号の影響が長期化し、沖縄県では人工呼吸器が必要なケア児が影響を受けた。行政に対策を求める声も上がる。

 鹿児島県の薩摩川内市社会福祉協議会がある会館の一室に8月上旬、避難所開設を想定しテントやベッドが並べられた。人工呼吸器を使いながら同市の自宅で暮らす女性(18)が訪れ、備品を問題なく使えるかを確認した。「発電機の燃料補給はどうするか」「呼吸器を置く簡易棚があるといい」。母親(49)や看護師、市職員らが、いざという時の対応を話し合った。

 災害時の「福祉避難所」として同会館に7月、非常用発電機が据え付けられた。母親は「避難所に何があるか分かると、自宅での備えも充実する」と話した。

■使用者把握の自治体は55%

 南日本新聞が、鹿児島県内の全43市町村に実施したアンケート結果によると、在宅で人工呼吸器が必要な住民の災害時避難に関し、人工呼吸器の使用者を「全数把握」「おおよそ把握」しているのは、約55%の24市町村だった。

 災害対策基本法は、支援が必要な人の避難手順をまとめた「個別避難計画」の作成を市町村の努力義務とする。どんな状況の人を優先するかは自治体に委ねられており、県内のある担当者は「人工呼吸器使用者の把握は難しく、作成が進まない」と打ち明ける。

■昇降ベッド、たん吸引も

 在宅で医療的ケアを受けながら暮らす人は、呼吸器だけではなく、姿勢を調整する昇降ベッド、たん吸引などさまざまな医療機器を使うため、電源は欠かせない。呼吸などに必要な筋肉が動かなくなる難病の患者団体・日本ALS協会県支部の里中利恵事務局長(58)は「医療機器のバッテリーに充電できる場所が分かるだけでも、当事者は助かる」と力を込める。「まずは自助の取り組みを」と3月、100万円ほどかけて自宅に非常用発電機を用意。会員らが困った時に使えるようにした。

 那覇市で短期入所施設などを運営する一般社団法人Kukuru(くくる)は台風6号で停電したり、電源確保に不安があったりした6人を急きょ受け入れた。公共施設への避難を断られた人もいたという。

 鈴木恵代表理事(55)が状況を発信すると、電気自動車を持つ人から連絡があった。「当事者ができるのは、地域に電源が必要な人がいると、周りに知らせること。民間だけでは限界があり、行政による環境整備も必要だ」と話す。
〈関連〉個人宅に設置された発電機=鹿児島市
非常用電源の切り替え器=8月、鹿児島市

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