愛せる国づくり先 関心持つこと大事

教育基本法改正に向けた審議が、国会で行われている。最大の焦点は「愛国心」をめぐる表現。この言葉の意味を新聞記事から考えようという授業が、2006年度NIE(エヌアイイー)実践校の鹿児島情報高校(鹿児島市)で行われた。「まずは愛せる国づくりを」「強要されたくない」-。批判や疑問など、生徒からはさまざまな意見が出された。

記事素材に素直な意見

鹿児島情報高校

「愛国心」を考える授業のまとめとして、「国家とは何か」について意見を交わす生徒たち=鹿児島市の鹿児島情報高校

授業は4月下旬から5月中旬にかけて、普通科系の2、3年生30人(計3クラス)を対象に行われた。NIE活動の一環で、身近な問題をテーマに考える力をつけさせるのが狙い。国語科の平田剛教諭(58)が担当した。

教材は、政府が教育基本法改正案を国会に提出した直後の4月29日-5月1日に掲載された南日本新聞など5紙の社説やコラム。「『愛国』をゆがめないか」と改正への動きに警鐘を鳴らすものや、各政党による本音での議論の必要性を訴えるものなど、さまざまな論調が掲載されていた。

授業では、討論を経てから、最後に生徒自身が「愛国心」をどう考えるかをプリントに書き、提出した。

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「今の日本は荒廃している。そんな国を愛せというのか」「今の日本に、愛することを強制するほどの価値はない」-。プリントの記述で目立ったのは、愛国心をうたう前にまず、愛される国づくりをしてほしい、という意見だった。中には「『愛される国づくりのために何をしたか』という質問に自信を持って答えられる政治家はいるだろうか」との指摘もあった。

法律に文言を盛り込むことへ違和感を表す生徒も多かった。「他人に指示されて愛することが本当の『愛』とは思わない」「心は誰も侵してはならない。自分で育てるもの」「戦争中のように思えてしまう」など、愛国心を“いい”ととらえるかどうかにかかわらず、共通していた声だ。

一方で「愛国心といわれてもピンとこない。どういう言動をとれば『愛国心を持っている』と判断されるのだろう」「君が代の歌詞の意味を考えて歌ったことがあるだろうか」と、自問する生徒もいた。

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愛国心をテーマに選んだ理由について、平田教諭は「(教育基本法改正は)われわれ教師にとっても、子どもたちにとっても、大きな問題。考えようによっては極めて政治的な話題だが、どういうふうに生徒が関心を示すか興味があった」と話す。実際の反応は「想像以上だった」。討論では、涙ながらに主張する生徒もいたという。

鯵坂智也君(17)=eプレップ科3年=は授業を振り返って「これまで自分で愛国心について考えることはなかった。一つの物事をここまで深く考えたのは久しぶり。(授業を)やってよかったと思う」。北川桃子さん(17)=同=は「国は、国民から日本が愛されていないとうすうす気づいていて、不安だから愛国心を押しつけようとしているのだと思う。それより、どうしたらいい国になるのかをみんなで考え、意見や関心を持つことが大事ではないか」と述べた。

「テーマが政治的かどうかにあまりこだわらず、生徒たちは率直な心をぶつけ合っていた」と平田教諭。「考えない若者が多くなったといわれて久しいが、そういう場を与えていないのが教育の現状。記事への批判や将来の日本への危惧(きぐ)など、若々しい感性にあふれていて、考えさせられるものが多かった」と話した。