新聞通し人間・社会に関心
基調提案で、茨城県小美玉市立小川南中学校の石島光夫校長はまず、「なぜ、今学校から家庭、地域へのNIEなのか」について説明した。
社会力向上
この中で、近年の都市化や核家族化、少子化、地縁的なつながりの希薄化などに伴い、家庭を取り巻く状況が大きく変わり、「家庭の教育力の低下が指摘されている」と強調。
新聞を通して、「情報を入手したり、社会問題になっていることを親子で話し合ったりすることで、家族の結びつきや親子の交流を深め、社会認識や教育力を高められる」と語った。
また、地域社会では、都市化やライフスタイルの変化などによって、人間関係や連帯意識の希薄化、大人の規範意識の低下、地域活動の衰退が生じており、「子どもの成長を支える多様な人間関係が崩れつつある」と警鐘を鳴らした。
その打開策の一つとして、「図書館や公民館などの施設、民間の事業体を含めて、地域社会全体で人間とのかかわりや交流体験を深める場を設け、地域住民のニーズに応える機会が必要」と提言した。
そして、「情報メディアの一つとして新聞を通じて自ら課題を見つけ、考えるという、生涯学習の視点が必要。学校、家庭、地域での3つのNIEが一体となって機能的に実践されることによって、人間や社会に関心をもつ子どもや大人が増え、その結果、若者の活字離れに歯止めがかかり、読解力が向上するとともに、社会力が向上する」と訴えた。
3ネットワーク
基調提案を踏まえ、パネルディスカッションでは教諭など4人のパネリストがそれぞれの立場から意見を交わした。
「家庭NIE、地域NIEのめざすものの一つに国語力、読解力の基礎の育成がある。読むこと、書くこと、考えることに触れる場が必要で、言葉は本来、家庭や地域ではぐくまれる」と話した。
茨城県PTA連絡協議会会長の堤千賀子さんは、広報紙作りの体験から発言。「学校の安全まで問題になる今、学校と地域が一体化した活動をする上で、新聞の持つ力は大きい」と述べ、「親も漫画世代。リアルな世界とバーチャル(仮想の)な世界の区別も、新聞を読み解く力から生まれる」。
その上で、「学校で培ってきたNIEの実績を家庭に広げるツール(道具)として、広報紙やタウン誌が役割を果たす。まずは、身近な学校や地域の情報に触れ、情報に慣れることから始めるのもいい。学校は生涯学習の核」と話した。
茨城新聞の小沼平・論説委員は、インターネットに象徴される情報化社会を背景に発言。「公民館講座で記者が講話する活動を始めたが、それを紙面で紹介したら読者から問い合わせがあった。膨大な情報を読者が判断する際、記者が協力できるはず」。ニュースの送り手と受け手が交流する場が必要として、現役記者をはじめ、団塊世代の大量退職に伴い、OB記者の活用も考えられると語った。
日本NIE学会会長で、横浜国立大学の影山清四郎教授。「パネリストの意見を総括すると、キーワードは『つなぐ』になる。教育の概念を学校から家庭、地域まで広げて考えるのは当然」としながらも、「学校の中は忙しく、学校や先生任せは少々酷ではないか。中央教育審議会の審議内容を見ても家庭、学校、地域の連携の在り方に悩んでいる」と指摘。
「蓄積されたNIEの実践例を体系化し、情報を提供する態勢づくりが、家庭、地域のNIE活動を発展させる」と話した。
公開授業-親子で切り抜き 独自の作品作り

小野瀬容子教諭(左)の助言を受けながらスクラップ新聞づくりに取り組む生徒たち=7月28日、茨城県水戸市の県民文化センター
切り抜いた記事を模造紙に張りつけ、感想や調べた内容を書き込む「スクラップ新聞作り」を展開したのは、茨城県常陸大宮市立第一中の小野瀬容子教諭。必要な材料をもとに、自分の考えを的確に書き表す能力を高めるのが狙いだ。
この日は、茨城大付属中の生徒21人と同中PTAの母親3人が授業に臨んだ。テーマは「夢に向かって努力している人を探そう」。
当日の朝刊7紙の中から各自が興味を抱いた記事を切り抜き、模造紙に張り直して題字、見出し、要約文、記事への感想や意見を書き込んだ。生徒らはカラーペンを使って飾りつけをしたり、レイアウトに工夫を凝らしたり。高校野球県大会や自民党総裁選を伝える記事などを活用し、独自の新聞を完成させた。
「今回は親子で気軽に取り組める作り方を紹介した」と小野瀬教諭。
同中PTAが昨年秋に結成した「新聞ボランティア」の山田真起子さん(48)は、「切り抜きは面白かった。子どもたちは家ではテレビを見がちだが、きょうの授業を参考にもっと新聞に親しみたい」と話した。
新聞記事を素材に作成したスピーチメモをもとに、記事の内容や自分の考えを述べる「1分間スピーチ」のグループに参加した青木一真君(12)=1年=は、米国産牛肉の輸入再開決定の記事を取り上げて発表。「食の安全についての意識が深まった。今までは見出しを読む程度だったが、新聞を詳しく読めば文章を読み解く力や想像力も高められると感じた」と話した。
作家・出久根達郎氏講演
文章の手本には記事が一番

でくね・たつろう 1944年、茨城県生まれ。中学卒後、都内の古書店に就職。73年に独立し、古書店の芳雅堂を営む傍ら文筆活動に入る。93年、「佃島ふたり書房」で直木賞受賞。
発禁本の一つに、日光・華厳の滝で投身自殺した旧制一高生の藤村操の「煩悶記」がある。政府は若者に刺激を与えるとして発売禁止にし、この世に存在しないとされたが、それが昭和50年代に大阪の古本屋で発掘され、昨年秋には2冊目が出現した。こうして後世の私たちの目に触れることができる。それが活字や古本の面白さだ。
私の父は戦前、印刷屋を営んでいた。戦後しばらくすると、母親と一緒に新聞配達を始め、私もついて回ったものだ。
私は文字を書くのが好きで、小説家になったのだが、新聞記事をそっくりそのまま原稿に書き写すことをした。どんなに短い記事でも、文章の基本の「いつ、どこで」などの要素が入っていて、ためになった。最初から小説をまねても駄目で、文章の手本は記事が一番いい。夏目漱石全集はなくても、新聞はどの家にもある。時代は進んでいるが、基本は自分の手で書くこと。読み返すと、自分の思想の変遷が読み取れる。
14歳のとき上京し、東京・月島の古本屋に就職した。文学青年だった主人は戦後、露店で蔵書を売った。活字に飢えていた時代で、一代で財を成した。ある日、夜学にいきたいと頼むと、「本の数ほど学校がある、教師がいる」と言われた。名言だ。
多くの偉人や奇人は、いつまでも書物の中で生きている。本を開けば、いくつもの人生を見せてくれる。
鹿県参加教諭ひとこと
家族で活用、印象的
佐志小・松岡高史教諭 初めて全国大会に参加してみてまず、印象深かったのは「ファミリーフォーカス」という、新聞記事を基に家族で話し合う活動だ。公開授業では、記事を3分割した画用紙にそれぞれ張り、感想を書いて三角柱にしてグループで紹介し合う取りくみが面白かった。いずれの活動も活字を通して、家族・友達とコミュニケーションを図り、考えを深めてゆく点が大変素晴らしい。
限界」を掘り下げて
郡山中・河野克純教諭 中学校の選択社会の公開授業には、2人の保護者が参加していたが、大人の立場で意見や指摘をして話し合いを深めていた。新聞を媒介に学校と家庭、子どもと大人がつながっていく姿が見られ、NIEの意義を再認識した。全体としては、NIEの限界や、なぜ新聞を使うのかという点を掘り下げた議論をしてほしかった。それがNIEを広めることにつながる。
移動講座開設に感銘
海陽中・福丸恭伸教諭 昨年の鹿児島大会を踏まえ、NIEを家庭・地域に広げようという意図は十分感じられた。保護者・教師がNIEアドバイザーとなって授業に参加するだけでなく、キャラバン隊を編成して神社・公民館などでNIE移動講座を開設する実践には感銘を受けた。普段から家庭・地域とのかかわりを大切にすることが、NIEの広がりにつながることを再認識させられた大会だった。
新聞に親しむ機会に
鹿児島商高・上園聡子教諭 学校で子どもたちと接していると、新聞が子どもたちにとってだんだん遠い存在になりつつあると感じている。今年の大会スローガンは「学校から家庭・地域へ広めようNIE」。家庭や地域の教育力が見直されている今、家庭や地域にNIEの実践が広がれば、子どもたちが新聞に親しむ機会も増え、読解力・思考力・表現力の向上にもつながるのではないかと感じた。
新聞の魅力を再確認
鹿児島商高・藤山賢一郎教諭 「生き方を考える」という高校の道徳の公開授業を見たが、新聞記事にどう共感するかという視点から、生徒の道徳心や自己表現力を高める取り組みが参考になった。
明るく活気にあふれた生徒の姿に、新聞の教育的効果の大きさを感じた。全国大会には初めて参加したが、優れた教材としての新聞や、新聞の魅力(良さ)を再確認した大会だった。
学校が基本を忘れず
鹿屋農高・池之上博秋教諭 学校、家庭、地域でのNIEの役割を明確化したのは評価できる。学校にとどまらず、保護者、地域の誰でも実践してゆくのは意味があると再確認した。社会教育などの点で希望を見いだすことができた。しかし、NIEの基本は学校での取り組みであることを忘れてはいけない。学校現場での積み重ねを踏まえてやらないと、ただ広げようとしても発展できないと思う。
気軽にやれる状況を
有明高・古澤庸教諭 家庭や地域の教育力の低下が叫ばれる今、「学校から家庭・地域へ広めようNIE」というテーマはNIEの可能性を示すものといえる。ただ、そのために新しい何かというよりも、家庭と連携した既に定評のある実践を、教員がもっと気軽に取り組める状況が必要だろう。新聞社が協力した家庭・地域の新聞作成など、今大会で学んだことを参考にしたい。