「こどもが拓(ひら)くNIE(エヌアイイー) 地域に根ざす学び求めて」をテーマにした第13回NIE全国大会高知大会(日本新聞教育文化財団、高知県教育委員会主催)が7月31、8月1の両日、高知市で行われた。全国から教育、新聞関係者が参加。パネルディスカッションや分科会を通して、新学習指導要領下でのNIEの展望や、実践の現状と課題について幅広く意見が交わされた。

(編集委員・海江田由加、社会部・福留梓)

パネルディスカッション

言語活動充実に活用 新指導要領下での展望探る

パネルディスカッション

新しい学習指導要領をふまえたNIEの可能性などについて意見が交わされたパネルディスカッション=高知市の県民文化ホール

テーマは「新聞を活用して育てる社会力-新しい教育課程を踏まえて」。文部科学省初等中等教育局教科調査官の大倉泰裕氏が新学習指導要領の理念を説明した上で、「主な改善点として真っ先に挙げられたのが言語活動の充実で、いわば1丁目1番地。国語科を中心にすべての教科・領域に求めている。その中で新聞を先生たちがどのように活用していくかが注目される」と述べた。

新学習指導要領とNIEのかかわりについて、広島県廿日市市立大野中学校の迫有香教諭は「社会科では、歴史が中3にも入ってきて、近・現代史が重視されるなど変化がある。学校のシラバス(指導計画)をつくるとき、そのどこで新聞を使うかを再構成するのが大事」。高知市立江ノ口小学校の川口加代子教諭は「これまでの指導要領は、厳選されすっきりしていて、その分私たちが自由にできていたが、次回からは記述が増え、濃密になったと感じている」と違いについて言及。言語活動の充実では、「新聞スクラップの実践を丁寧に行うことで、語彙(ごい)力や要約する力がついたのを実感していた。今のような活動を続ける中で、達成できると感じている。新聞を楽しもうという気持ちを大切にして、指導要領を味方に取り組んでいけたら」と語った。

同市立横内小学校の友村憲朗校長は「言語活動の充実は、言葉の活動の充実。つまり、全教科・領域の中で言葉の力を育てるということ。例えば敬語の学習でも、国語科で学び、生活、社会科などでインタビューをし、お礼の手紙を書くことで、高めることができる。新聞は子どもと社会とをつなげる有効なツール。(新学習指導要領は)NIEを実践する先生にとって追い風だ」とした。

大倉氏は「新聞にはインターネットなどにない魅力がある。どんな力を生徒につけたいのか、そのために新聞記事を先生方がどう使っていくか。ここが一番大切」と話した。

友村校長、川口、迫両教諭は、それぞれの学校での実践も報告。迫教諭は、単に新聞を使えばいいという活動主義や、無批判に記事を取り扱っていた反省から、バージョンアップしたスクラップノートについて説明。「新聞スクラップをつくるだけでなく、思考力を高めるために、自分の意見を書き、さらになぜそう思ったのか、その意見は主観に基づくものか、事実認識からくるものかを考えさせた。どのような教育効果を狙って新聞活用を行うかを明確にする必要がある」と話した。

コーディネーターの高木まさき横浜国立大学教授は「新聞は教科書より多様性や自由度が高く、子どもに刺激を与える『知的冒険遊び場』の要素を持つ。新聞を使うことは、試行錯誤や失敗もあるが、それらを含めて学びは深まる。そこに新聞のよさがある」とまとめた。

分科会から

夢ある記事 選んで発表 江ノ口小児童が公開授業

第13回NIE全国大会2

夢のある記事を探し、新聞記事を切り抜く子どもたち=高知市の高知新阪急ホテル

公開授業に参加したのは高知市立江ノ口小学校6年1組の25人。単元は6年国語の「伝え合おう、私の意見」。園山和正教諭の指導で、児童らは4-5人のグループに分かれて夢と希望を感じる記事を選び、ニュース番組形式で発表した。

高知新聞や全国紙から選んだ2紙を食い入るように読み、記事を吟味した。選んだ記事を切り抜き、見出しをつけ、ニュース原稿を作る。選べない班には園山教諭が「あなたが夢を感じる記事でいいんだよ」と助言。見出しを考えたり原稿をチェックしたり、すべての班が時間ぎりぎりまで新聞を放さなかった。

20分後、「イマコレ!ニュースの時間です」という元気な声で始まった発表では、イチローの3000本安打達成や次世代高機能携帯など児童らが夢や希望を感じたさまざまな話題が読み上げられた。

研究討議では「記事を読み、まとめる速さに驚いた」など感想や意見が出た。助言した新聞関係者は「児童の『新聞には悪いニュースが多いと思っていたけど、夢のある記事もあるんだ』との言葉に救われた」と話した。

園山教諭は「卒業式で、自分の言葉で夢を語ることを目標に、このテーマに取り組んだ。自分の意見を持つよう指導し、新聞を通しての話題を共有するようにしている」と話した。

休刊”告げる号外発行 「新聞の葬式」史実も紹介

第13回NIE全国大会3

突然飛び込んできた新聞“休刊”の号外に見入る生徒役の教師たち=高知市の高知新阪急ホテル

高知新聞社で6カ月間の体験研修を経験した教員約10人を生徒役に、土佐の自由民権運動における新聞の役割や、現代の教育と新聞のかかわりについて考えた。

明治15年に当時の「高知新聞」が言論弾圧で発禁処分となり、抗議のために「新聞の葬式」が行われた史実を紹介。続いて分科会会場に、現代の架空の新聞「民権新聞」が休刊になるという模擬号外が飛び込んだ。

生徒役の教員らは号外を見ながら意見交換。「(号外には)電子新聞参入の動きも、と書いてあり、それがあれば、新聞はなくても生活できるかも」という不要論も述べられた。

一方で、「新聞は社説や読者の声などが載った意見の集合体。そんな媒体は新聞以外にない。紙媒体がなくなるときは危険なときではないか」「ネットの情報はフリー(無料)で調べるのにはいいが、新聞は対価を払い、その信用性で読んでいる。電子化の時代になったら、言論のあり方も変わってくるのでは」という声もあった。

作家・山本 一力氏講演

社会の鼓動教えてくれた/楽しさ、文化を次世代に

山本一力さん

「生きる力を新聞で」というテーマで講演する山本一力氏=高知市の県民文化ホール

私が小学校6年生のとき、担任の先生がいつも新聞記事を見せながら世界の動きを話してくれた。また中学3年から高校3年まで新聞配達をした。ケネディ大統領暗殺が起こった時代、世の中が前へと進んでいく足音や社会の鼓動を新聞が伝えてくれた。毎日接していれば、意識しなくても情報が入ってきた。

私は新聞と一緒に育ってきた。いろんなことを教えられた。お金があってもなくても生きていく糧の一つとして、米を買うのと同じ重要性を見いだし得ようとした。人生の大事な糧が新聞だ。手を伸ばして新聞がある安心感。テレビやラジオのように声高に話し掛けてはこないが、沈黙ではない。大きな事件が起きたら大きな見出しがどんと出る。見ただけで分かる。

インターネットこそパンドラの箱。いいことも悪いことも飛び出し、後戻りはできない。「金を払わなくても読める。今更新聞を取ることはない」と言う人がいるが、それは単なる情報。新聞紙を手に持ち、インクのにおいや紙の手触りで伝わってくることがある。

新聞は今、端境期にある。新聞と学校の先生が両輪となり「新聞って楽しいもの。大事なもの」と次代を担う子どもたちに新聞とその文化を残していくことが使命だ。

鹿県参加教諭ひとこと

有効活用の土台必要

八幡小・尾辻孝徳教諭 新学習指導要領では、「言語活動の充実」が大きな柱として掲げられ、新聞活用についても明記されている。今後は新聞が学習の対象や教材になる機会が増えていくと思われるが、「なぜ新聞なのか」「新聞でどんな力が付くのか」等を明確にし、共通の認識の上での新聞活用が重要になってくる。教育と新聞がより身近になり、今までの研究実践を整備し、新聞の有効活用を図る土台を築く必要がある。そう強く感じた全国大会であった。

授業の狙いしっかり

東桜島中・宮路正教諭 久々の全国大会参加だったが、全国の先生・新聞社の方々と交流を深められ有意義であった。パネルディスカッションで「いかに新聞を社会科に活用するか」という広島の先生の言葉が印象に残った。スクラップや2日目の「歴史新聞」づくりの公開授業でも、主観か事実かの見極めと、「なぜ、新聞にまとめるのか」、教師が授業の狙いをはっきり持つこと、が大事だと感じた。新教育課程をふまえて、今後指導計画を立てていきたい。

アイスクリンと新聞

甲東中・森田直樹教諭 子どものころ、夏休みに祖母に小遣いをもらい、アイスクリンなるものを買って食べた。大人になってアイスクリンを忘れていた。

世間で起きたことを知る方法はウェブやテレビが当然になった。新聞がなくなってしまわないのはなぜ? 新聞はその時だけではなく、過去や未来を伝えるものでは? 新聞はアイスクリンのようにただ懐かしいだけではなく、これからも終わらず世の中を示すものなんだろうな、などと考えたとっても暑かった高知だった。

大学まで通して推進

海陽中・福丸恭伸教諭 新学習指導要領の目指す「言語力の育成」がNIEの方向性と合致することを認識した。国語の研究授業で、3年間継続的に新聞記事の要約、感想・意見を記述する「新聞ノート」の実践は、言語力育成に大きな効果ありと感じた。記事の事実から自分の意見・主張に結びつく明確な理由・根拠付けをどう構築していくかが今後の課題だ。大会では、小中高のみならず大学・短大までの過程を通してNIEを推進していく必要性を強く訴えた。

さらに広める努力を

鹿屋農業高・池之上博秋教諭 記録的な猛暑にも負けない高知県のNIEへの熱い思いが、伝わってきたすばらしい大会であった。今回、大きく取り上げられた学習指導要領の改定の重点である「思考力・判断力・表現力の育成」「言語力の育成」はまさにNIEの得意とする分野であり、今までのNIEの取り組みが高く評価されたともいえる。それだけに研究・実践活動の今後の展開を再検討するとともに、本県でもNIEをさらに広める努力の必要性を感じた。